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問い

問い



手段がそのまゝ
目的であるのはうつくしい

アイスクリームの容れものゝ三角が
そのまゝたべるウエファースであり
運ぶ材木の幾十百本が
そのまゝ舟の筏であるように
「なんのために生きるのです」
そんな少女の問いかけに
「問いはそのまゝ答えであり」と
だれかの詩句を心に呟きつゝ
だまって僕はほゝえんでみせる




杉山平一 詩集/ぜぴゅろす


かなしい晩

かなしい晩



孝ちやんに一度動物園を見せたかつた

ワンワンしか知らなかつた

象やあざらしを見たらどんなに驚いたでしよう

長い長い病気をしてそのまま起てなかつた

もう一年も前のことなのに・・・

なんだかなんだかかなしい晩です




杉山平一 詩集/声を限りに


閉された部屋

閉された部屋



子供がゐなくなつてさびしい

家路を人がいそぐのは
そこに食事と子供の愛があるからである

その子供の灯は消えてしまつた
それは真夏の朝のことだつた
いまは秋の虫が鳴いてゐる

屍をやいた黒い煙はまつすぐ
たれこめた雨雲の間に吸はれて行つた
子供は灰となつてこの空に漂つてゐるだらう
その片言はわれら夫婦の胸にのこつてゐる

けれども彼に会ふことはできない
彼はどこへ行つたのか
どこへ出て行つたのか

人生は閉された部屋のやうである
出口ははじめからないのだ
人はさまよひもだえあせるのである

私は壁を戸のやうにたたき
頭を身体をぶつつけてはあきらめ涙を流す
子供はどこへ行つたか どこから出たか
人間が考へる葦であり
考へる故に偉大であつたとしても
この人生を超え得たと考へ得たとしても

遂に考へは錯覚でありなぐさめであり
どうにもできず われらはこの部屋に閉されてゐる
どうにもならぬことを思つて私はただもだえる

おお出口のない人生――戸をあけて下さい




杉山平一 詩集/声を限りに


新しい世界へ

新しい世界へ



おれはたたきつける
全力をあげてぶつかる
おれのなかの行き詰まりに
日々営々として
とにかく
曲がりくねつて
いま行き着いたのに
待つていたのは
この行き止まりだつた
抜けれると思つて
登りもし、下りもして
たどりついたのだ
もう戻れるものか
絶対に戻らない
おれはふりかえらない
前へ
おれはからだごとたたきつける
ただぶつかる
ぶちこわしてでも
出てゆく




杉山平一 詩集/声を限りに


ジャズ

ジャズ



勤めに疲れきつたからだに
はげしいジャズが
一杯の焼酎のように入つてきて
すでにたそがれた心の中に
パッと電気がつく
すると見え出すのだ
たのしかつたむかしのこと
ふたたび会えぬあなたのこと
亡くした二人の子供のこと




杉山平一 詩集/声を限りに


公園

公園



 途方に暮れる、という言葉を私は好いていた。津村信夫の「夕方、私は途方に暮れた」という詩の魅力だったかもしれない。
 しかし、それは身に沁みて体験したのは後年である。魅力どころではない。
 工場で払う給料が遅れてしまっていて、一部でも、きょう払うと、組合委員長と約束した。それも、永年の取引先の社長が、手形なら貸してやると、昨日、電話で承知してくれたからであった。
 銀行では間に合わぬので、そのころ麻薬のように利用しはじめていた町の高利の金融屋に、その手形をもって行くからと現金の手配を頼んで出かけてきたのだった。
 取引先を訪ねると、社長は留守だという。何時ころ帰るのかというと、九州へ出張、帰るのは三日先と秘書の女性がいうのに、私は不安になった。顔見知りの経理部長のところへ行って、昨日の電話での約束を話すと、そんな話はきいていませんよ、とにべもない口ぶりだった。
 ビルを出ると、すぐ工場へ電話して、何か連絡でもあったかきいてみると、何もないという。それより給料は大丈夫か、と委員長が何度もききにきているというので、ま、いま、交渉しているから、と電話をきった。
 こうなれば、在庫の不良の商品でも担保にして金を作ろうと思い、用意させてある金融屋に公衆電話をした。
 「手形をもってくるといったじゃないですか」
 「もって行きますが、相手に急用ができて二三日おくれるので、とりあえず商品をあずけておいて、と思うのですが」
 「話がちがうじゃないですか、商品なら品物をたしかめて、倉庫証券をつくって貰うなりしてのことになりますし、きょうのことになるわけないでしょう」
 そんなやりとりで、どうにもならなくなってしまった。一軒、契約のできかかった商社に電話して前途金をねだるにしても、そんなことをしては契約もつぶれてしまう。
 どうしよう、私は工場へは帰れず、かといって、不義理がかさなって助けを求めに行く当ても、もう思いつかない。私は道の真中に立ち止った。人々はみな歩いて行くので、いつまでも立ち止まっていては邪魔になる。道の端に寄ると、店先になり買物客に見られ、うろうろしていると不審がられる。
 仕方なく私は歩き出す。ショーウインドーを覗くふりをしてみる。どこか喫茶店に入って考えればいいのだが、コーヒー代の持ち合わせもない。電話の小銭がなくなってしまう。
 あるくうちに、ぼんやり人の立っているところがあった。バスの停留所だった。ここなら、立っていても怪しまれない。私は人々にまぎれて立ちつくしていた。立っていろいろ考えねばならない。
 バスがきて、客は乗って行ってしまった。私はひとり残って立ち、あたりを見ている風をする。
 工場へはどういって電話しよう。また、ひと騒ぎだ。おめおめ帰れない。しかし、帰らぬわけには行かぬ、今夜はまた徹夜の団交かと思う。
 下山国鉄総裁が、首切りの団交をひかえて、三越百貨店に入り、そのまま行方不明になった事件も、何となく、こんな気分だったのではないか、と思ったりする。
 いつまでも立っておれず、私はうつむいて歩き出した。大きな橋を渡った。ああ、公園がある。私はそこに、私の場所を見つけた気がした。
 都会のなかの公園は閑散としている。私は誰もいないベンチに腰を下ろした。
 工場では、いまかいまかと私の電話を待っているだろう。みんなの家庭では、父が、きょうは給料をもって帰ると胸ふくらませているだろう。どの面さげて、私は帰れるか。
 二つほど向うのベンチに一人、若い男が、カバンを手に腰かけて、じっとしている。セールスがうまく行かないので、会社にもどれないのではあるまいか。
 私はベンチに寝ころんだ。空は青かった。公園は、こころ痛める者のためにあるのだった。遠く、ゴーゴーと、自動車や電車の騒音が、潮騒のようにきこえてくる。




杉山平一 詩集/ぜぴゅろす






 尼崎の本工場も立ち行かなくなり、全従業員は解散した。切り売りして、僅かに残った工場には、守衛の可愛がっていた一匹の犬だけが残った。もとは迷い込んできた雑種の野良犬だったが、さびしそうに私だけをたよりにしている様だった。弁当の残りをやって、いっしょに暮すことになってしまった。日に日に埃のつもってくる機械の隅で、この牝犬は八匹も仔を生んだりした。貼り紙をすると、子供がつぎつぎに貰いにきたりした。
 雲がジュラルミンのように光り出した秋の朝、工場へくると、向いの会社の守衛が、今朝、犬とりにとられましたよ、と告げてくれた。
 私は、何か負担をのがれたように、ホッとする気持だった。私とともに残っている父の社長にいうと、日頃、厳格冷静であるのに、何とかしてやりたい、といった。
 夕方近くになると、次第に、あの犬こそ、残ってくれているたった一人の従業員だった、という思いが、こみあげてきた。それは私のうちの、何かを救い出さねばならないことのような気がしてきた。
 翌日、とにかく、保健所へ尋ねてみることにした。千円以上の金がいるということだった。いまはそれも大変なことだった。
 もし居たら引取ろうと決心がつくと、気が軽くなった。私はたった一台の自転車にのって、保健所に行ってみた。
 三日間は保管してあるという。
 保健所の庭には、犬の霊魂碑というのが建ててあった。
 子供づれの若い母親が、やはり、犬を引取りにきていた。いっしょに、犬のいる部屋のドアをあけて入った。鉄格子のなかに数十匹の犬がいた。血走って異様に、ぎらぎらした目が、いっせいに私を射た。うらみと疲れとあきらめのそれらの光に、私は息をのんだ。格子は三つに区切られていて、今日、昨日、一昨日の分と、係の若い男が説明した。今日の檻の犬は、さかんに吠えるが、昨日、一昨日の犬は、吠えなかった。高価な犬が沢山いたが、どこを見ても、うちの犬は見当らなかった。やはり、とられたのではなかったか、とあきらめかけたとき、私の方にすり寄ってくる犬のうちに、見違えるように弱々しく私を見上げている彼女がいた。私が、おお、と声を出すと、捨てられたのではないと知ってか、彼女も吠え出した。これです、これです、というと、係の男がひき出してくれた。部屋を出ると、男は狂犬病の注射をし、私にひき渡してくれた。何やかやと書類を書き金を払っている私に、彼女はとびかかってはすがりついて、私はよろめいてばかりいた。
 庭へ出て、私が自転車に乗ると、犬はあとを小走りについてきた。町並をぬけると、自転車といっしょになって、犬は走り出した。コールタールをぬった黒い塀と、コンンクリートの白い塀にはさまれた人気のない工場街の道へ出ると、もう傍目もふらず、犬はまっしぐらに飛ぶようにはずんで、走り出した。私も、負けじと錆びた自転車のペダルを懸命に力一杯踏みつづけた。風は冷たかった。何処へ帰ろうとしているのか、何かから脱出しようとしているのか、ながい間、精魂を傾けつくしてついに全滅したかなしみが、急に私の胸にこみ上げてきた。とにかく、私と、犬は走った。ただ走りに走り続けた。




杉山平一 詩集/ぜぴゅろす


遅刻者

遅刻者



飛行機や超特急で、ずいぶん時間が短縮されたのに、出発前一時間も前から出発点にきて待つている人があります

また発進の合図が終わつたころ、カタカタカタカタ音をさせて、いきせき切つて走つて乗り込む人があります

それからまた、出発したあとのガランとしたホームにとび込んできて、つつ立ち、ぼんやり時間表などを見あげて、ひとり言をいつている人があります
それが私です




杉山平一 詩集/声を限りに



砲身

砲身



少年の日の夢であった戦艦陸奥が
海から引揚げられていた
かつて火蓋を切った双つの砲口から ドッと
海水が流れ出てきた

 あんな凄い涙は見たことがない

ある日 京都嵐山の美術館を訪ねると
その巨大な砲身が 屋根のない展示場に
飾られていたのだった
「戦艦陸奥の主砲、砲門をひらけば、弾丸は京都
大阪を越えて兵庫県宝塚の地に達する」と
そんな説明札に飾られて
しずかな砲口は
その日の鉛色の空を見上げていた。




杉山平一/詩集「木の間がくれ」

理想

理想



思いを 高く
これみよがしに
頭上にかかげ
ふりかざしたまではいいが
それを まっすぐ
一直線に
ビューンと
投げおろしてきた

受ける私は痛くてつらい




杉山平一/詩集「木の間がくれ」
プロフィール

梅田慈将

Author:梅田慈将
ただ生きているということは、生きる、ということではない。そのままそこで死んでいるような、つまらない男です。

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