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伝道

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若い娘が
わが家の鉄の扉を叩き
神についての福音の書を読めという

勇気をふるい、私は素っ気なく答える
買っても読まないでしょうし
折角ですが――

微笑んだ娘のまっすぐな眼差しに会って
私のほうが眼を伏せる
申訳ないが――そう言って私は扉を閉じる

神を、私も知らぬわけではない
神をなつかしんでいるのは
娘さん、君より私のほうだ

けれど、どうして君は
こんな汚濁の世で
美しすぎる神を人に引合せようというのだ

拒まれながら次々に戸を叩いてゆく
剛直な娘に
なぜか私は、腹立たしさを覚える

私なら
神を信じても
人に、神を信ぜよとは言わない

娘さん
どうして、君は、微笑んで
世の中を、人を、まっすぐ見つめるのだ

ここは重い鉄の扉ばかりの団地だ
君は、どの扉へも
神をしのびこませることができなかったろう

君は、眼の前で
次々に閉じられる重い鉄の扉を
黙って見ていなければならなかったろう

娘さん、私は神が必要なのに
私は言った
買っても読まないでしょうと




吉野弘 詩集/「感傷旅行」

プロフィール

梅田慈将

Author:梅田慈将
ただ生きているということは、生きる、ということではない。そのままそこで死んでいるような、つまらない男です。

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