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ある朝

ある朝


――昭和十一年二月二十九日

ぞろぞろと人がつづく。
ゆく人、かえる人、出あって話しあう人。
電柱にはられた告示や号外の前にあつまる数十人。
それを横目にみて通る人。
――省電は全線停止
――バスもうごかない
朝の街路のうえをうごきまわる
学生やサラリマンや絆天着やトンビや女たち。
納得できずに駅まで来て引かえしてゆく。
プラットホームは白くかわき
線路がひかっている。
屋根々々には残雪が凍りつき
雲を割ってうすい陽がさした。
街つづき一里の彼方に
バリケードがあり
銃口が対峙し
まさに火を発せんとし
このあたりひとびとは平常の服装であるいている。
ひとびとは家にかえり
ラジオで哀愁のこもった告諭(注)をきいた
また道ばたに立ってそれを聞き
ある者は涙ぐんでさえいた。
ラジオは刻々に動静を報じて
しだいに平静になりつつあるとくりかえした。
ひとびとはかえってそわそわとおちつかなかった。
いつものように出かけねばならぬと思い
ひとびとは交通がふだんにかえることを待ち望んだ。
ひとびとは何がおこり何が鎮まったかをほんとにはしらなかった。
それがなぜ起ったかもかんがえなかった。
大勢は電車がうごき出すと改札口に殺到した。

 注 天皇告諭として放送された「兵に告ぐ」

                    (昭和十一年)




秋山清 詩集/白い花

プロフィール

梅田慈将

Author:梅田慈将
ただ生きているということは、生きる、ということではない。そのままそこで死んでいるような、つまらない男です。

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