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日常茶飯

日常茶飯



たまたまそのときそこに
居合わせたというだけのことで
ひとりの人間が死ぬ
ふたりの人間が死ぬ
いや それは
ひとりやふたりだけのことでは
ないかも知れぬ

アパートの防風の破片が頭上に落ちてくる
オート三輪が歩道に乗り上げる
毎日の新聞をよくよんでごらんよ
眠っている間にガス菅からガスがもれる
横町から走り出た犬が突然かみつく
いや それは
ガスや犬くらいのことではないかもしれぬ

ひとり実直な中年の会社員が
毎朝きまった時間に家を出る
きまったように公園のかどを曲がり電車に乗り
きまった時間に会社の自分のいすに坐る
何か変わったことの起きる気配も何もない
給料が突然三倍になるなんて
そんなこと金輪際起りっこないのだ

一杯の茶をすすりながら
給料日まであと何日と胸算用をし
きまったように一枚の新聞紙をひろげる
世のなかのすべてのひとがよむように
彼もそこによむ
「たまたまそのときそこに
居合わせたというだけのことで」死んだひとのことを

他人の不幸を
いや 事件のニュースを
さまざまのニュースを
原爆をつんだ飛行機がイギリスの基地からとび立ち
四六時中とんでいるというニュースを
彼はよみ それからきょうの仕事を
きのう止めた所からきのうと同じように始めるのだ




黒田三郎/詩集「もっと高く」(一九六四年)

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梅田慈将

Author:梅田慈将
ただ生きているということは、生きる、ということではない。そのままそこで死んでいるような、つまらない男です。

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