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月給取り奴

月給取り奴



僕はこの道のしずかさにたえる
小さなユリを幼稚園に送った帰り
きょうも遅れて勤めに行く道
働きに行く者はとっくに行ってしまったあとの
ひっそりとしずかな住宅地の
薄紫のあじさいの咲いている道

家々の向こうのとおい彼方から
製材工場の機械のこのきしる音がきこえてくる
三年保育の小さなユリは
自分で靴を脱ぎ上履きにかえて
もう朝の唱歌のはじまっている教室へ上って行った
その小さなうしろ姿

あさっては妻が療養所へ行く日
小心で無能な月給取りの僕は
その妻をひとり家に残し
小さなユリを幼稚園へ送り
それからきょうも遅れて勤めに行く
働きに行く者は皆とっくに行ってしまったあとの
ひっそりとしずかな道を

バス道路へ出る角で
僕は言ってやる
「ぐずで能なしの月給取り奴!」
つぶやくことで
ひそかに僕は自分自身にたえる
きょうも遅れて勤めに行く自分自身にたえる




黒田三郎 詩集/「小さなユリと」(一九六〇年)

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プロフィール

梅田慈将

Author:梅田慈将
ただ生きているということは、生きる、ということではない。そのままそこで死んでいるような、つまらない男です。

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