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ビヤホールで

ビヤホールで



沈黙と行動の間を
紋白ちょうのように
かるがると
美しく
僕はかつてとんだことがない

黙っておれなくなって
大声でわめく
すると何かが僕の尻尾を手荒く引き据える
黙っていれば
黙っていればよかったのだと

何をしても無駄だと
白々しく黙りこむ
すると何かが乱暴に僕の足を踏みつける
黙っている奴があるか
一歩でも二歩でも前に出ればよかったのだと

夕方のビヤホールはいっぱいのひとである
誰もが口々に勝手な熱をあげている
そのなかでひとり
ジョッキを傾ける僕の耳には
だが何ひとつことばらしいものはきこえない

たとえ僕が何かを言っても
たとえ僕が何かを言わなくても
それはここでは同じこと
見知らないひとの間で心安らかに
一杯のビールを飲む寂しいひととき

僕はただ無心にビールを飲み
都会の群集の上をとぶ
一匹の紋白ちょうを目に描く
彼女の目にうつる
はるかな花畑のひろがりを




黒田三郎 詩集/「ある日あの時」

プロフィール

梅田慈将

Author:梅田慈将
ただ生きているということは、生きる、ということではない。そのままそこで死んでいるような、つまらない男です。

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