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秋の日の午後三時

秋の日の午後三時



不忍池のほとりのベンチに坐って
僕はこっそりポケットウィスキーのふたをあける
晴衣を着た小さなユリは
白い砂の上を真直ぐに駈け出してゆき
円を画いて帰ってくる

遠くであしかが頓狂な声で鳴く
「クワックワックワッ」
小さなユリが真似ながら帰つてくる
秋の日の午後三時
向岸のアヒルの群れた辺りにまばらな人影

遠くの方で微かに自動車の警笛の音
すべては遠い
遠い遠い世界のように
白い砂の上に並んだふたつの影を僕は見る
勤めを怠けた父親とその小さな娘の影を




黒田三郎 詩集/「小さなユリと」

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ビヤホールで

ビヤホールで



沈黙と行動の間を
紋白ちょうのように
かるがると
美しく
僕はかつてとんだことがない

黙っておれなくなって
大声でわめく
すると何かが僕の尻尾を手荒く引き据える
黙っていれば
黙っていればよかったのだと

何をしても無駄だと
白々しく黙りこむ
すると何かが乱暴に僕の足を踏みつける
黙っている奴があるか
一歩でも二歩でも前に出ればよかったのだと

夕方のビヤホールはいっぱいのひとである
誰もが口々に勝手な熱をあげている
そのなかでひとり
ジョッキを傾ける僕の耳には
だが何ひとつことばらしいものはきこえない

たとえ僕が何かを言っても
たとえ僕が何かを言わなくても
それはここでは同じこと
見知らないひとの間で心安らかに
一杯のビールを飲む寂しいひととき

僕はただ無心にビールを飲み
都会の群集の上をとぶ
一匹の紋白ちょうを目に描く
彼女の目にうつる
はるかな花畑のひろがりを




黒田三郎 詩集/「ある日あの時」

夕焼け

夕焼け



いてはならないところにいるような
こころのやましさ
それは
いつ
どうして
僕のなかに宿ったのか
色あせた夕焼け雲のように

大都会の夕暮の電車の窓ごしに
僕はただ黙して見る
夕焼けた空
昏れ残る梢
灰色の建物の起伏

美しい影
醜いものの美しい影




黒田三郎 詩集/「小さなユリと」

プロフィール

梅田慈将

Author:梅田慈将
ただ生きているということは、生きる、ということではない。そのままそこで死んでいるような、つまらない男です。

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