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書く

書く


詩 それは
海からこぼれて
空になるように
空からこぼれて
海になるように
そのように書かなければ
いけないものなのです



石原吉郎 詩集/足利


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一期

一期


一期にして
ついに会わず
膝を置き
手を置き
目礼して ついに
会わざるもの



石原吉郎 詩集/足利


控え

控え


いわれなく座に
耐えることではない
非礼のひとすじがあれば
礼を絶って
膝を立てることだ
膝は そのためにある
そろえた指先も
そのためにある



石原吉郎 詩集/満月をしも


無題

無題


無ければ それでいいだろう
そこまでで
もう無いなら




石原吉郎 詩集/満月をしも


やさしさ

やさしさ



やさしさはおとずれるものだ
たぶん ふいに
ある日街かどのある時刻に
であいがしらに
わしづかみにされる
逃げ場のない怒りのような
このやさしさ
空は乱暴に晴れていて
いちまいの皿でも広すぎる
しずけさへおとす
波紋のような
やさしさの果ての
やりきれなさは
ひとつまみの吸殻で
ふっきれるか




石原吉郎 詩集/禮節





かぎりなく
はこびつづけてきた
位置のようなものを
ふかい吐息のように
そこへおろした
石が 当然
置かれねばならぬ
        空と花と
おしころす声で
だがやさしく
しずかに
といわれたまま
位置は そこへ
やすらぎつづけた




石原吉郎 詩集/水準原点

物質

物質



悲しみはかたい物質だ
そのひびきを呼びさますため
かならず石斧でうて
その厚みは手づかみでとらえ
遠雷のようにひびくものへ
はるかにその
重みを移せ
悲しみはかたい物質だ
剛直な肩だけが
その重さに拮抗する
拮抗せよ
絶えず拮抗することが
素手で悲しみを
受けとめる途だ




石原吉郎 詩集/「斧の思想」


一九四九年 パム



ここに来てわれさびし
われまたさびし
われもまたさびし
風よ脊柱をめぐれ
雲よ頭蓋にとどまれ
ここに来てわれさびし
さびしともさびし
われ生くるゆえに




石原吉郎 初期未刊詩篇





レストランの片隅で
ひっそりとひとりで
食事をしていると
ふいにわけもなく
涙があふれることがある
なぜあふれるのか
たぶん食べるそのことが
むなしいのだ
なぜ「私が」食べなければ
いけないのか
その理由が ふいに
私にはわからなくなるのだ
分からないという
ただそのことのために
涙がふいにあふれるのだ




石原吉郎 詩集/「満月をしも」

白い駅で

白い駅で



白い
清潔な駅におり立つと
生涯は そこで
終っているようだ
そこからあるき出す
一服の煙草と
よく透る挨拶と――
めくるめく記憶は
不意にとおいにせよ
そこで終るのが
おれであって
いいはずがない
風があると
君はいったな
おれが ある
さようならといわずに
ひとつの領域をこえる
まぶしい背なかだけの
おれだ




石原吉郎 詩集/「いちまいの上衣のうた」

霧の中の犬

霧の中の犬



霧の中の犬をおれは打った
霧のなかへ犬が追いつめた
犬の生涯のようなものを
おれは打った
息にまみれて
打つに耐えぬもの
逃亡と追跡の
間のようなもの
祈るばかりに小さなものを
ながい弁明のように
おれは打った
霧と名づけた
霧のようなもの
犬と名づけた
犬のようなものを
ただひとり 孤独な
罪と罰のように
おれは打ちつづけた




石原吉郎 詩集/「いちまいの上衣のうた」

花であること

花であること



花であることでしか
拮抗できない外部というものが
なければならぬ
花へおしかぶさる重みを
花のかたちのまま
おしかえす
そのとき花であることは
もはや ひとつの宣言である
ひとつの花でしか
ありえぬ日々をこえて
花でしかついにありえぬために
花の周辺は的確にめざめ
花の輪廓は
鋼鉄のようでなければならぬ




石原吉郎 詩集/「いちまいの上衣のうた」

葬式列車

葬式列車



なんという駅を出発して来たのか
もう誰もおぼえていない
ただ いつも右側は真昼で
左側は真夜中のふしぎな国を
汽車ははしりつづけている
駅に着くごとに かならず
赤いランプが窓をのぞき
よごれた義足やぼろ靴といっしょに
まっ黒なかたまりが
投げこまれる
そいつはみんな生きており
汽車が走っているときでも
みんなずっと生きているのだが
それでいて汽車のなかは
どこでも屍臭がたちこめている
そこにはたしかに俺もいる
誰でも半分はもう亡霊になって
もたれあったり
からだをすりよせたりしながら
まだすこしずつは
飲んだり食ったりしているが
もう尻のあたりがすきとおって
消えかけている奴さえいる
ああそこにはたしかに俺もいる
うらめしげに窓によりかかりながら
ときどきどっちかが
くさった林檎をかじり出す
俺だの 俺の亡霊だの
俺たちはそうしてしょっちゅう
自分の亡霊とかさなりあったり
はなれたりしながら
やりきれない遠い未来に
汽車が着くのを待っている
誰が機関車にいるのだ
巨きな黒い鉄橋をわたるたびに
どろどろと橋桁が鳴り
たくさんの亡霊がひょっと
食う手をやすめる
思い出そうとしているのだ
なんという駅を出発して来たのかを




石原吉郎 詩集/「サンチョ・パンサの帰郷」

さびしいと いま

さびしいと いま



さびしいと いま
いったろう ひげだらけの
その土塀にぴったり
おしつけたその背の
その すぐうしろで
さびしいと いま
いったろう
そこだけが けものの
腹のようにあたたかく
手ばなしの影ばかりが
せつなくおりかさなって
いるあたりで
背なかあわせの 奇妙な
にくしみのあいだで
たしかに さびしいと
いったやつがいて
たしかに それを
聞いたやつがいるのだ
いった口と
聞いた耳とのあいだで
おもいもかけぬ
蓋がもちあがり
冗談のように あつい湯が
ふきこぼれる
あわててとびのくのは
土塀や おれの勝手だが
たしかに さびしいと
いったやつがいて
たしかに それを
聞いたやつがいる以上
あのしいの木も
とちの木も
日ぐれもみずうみも
そっくりおれのものだ




石原吉郎 詩集/「サンチョ・パンサの帰郷」

 

酒がのみたい夜

酒がのみたい夜



酒がのみたい夜は
酒だけではない
未来へも罪障へも
口をつけたいのだ

日のあけくれへ
うずくまる腰や
夕ぐれとともにしずむ肩
酒がのみたいやつを
しっかりと砲座に据え
行動をその片側へ
たきぎのように一挙に積みあげる
夜がこないと
いうことの意味だ
酒がのみたい夜はそれだけでも
時刻は巨きな
枡のようだ
血の出るほど打たれた頬が
そこでも ここでも
まだほてっているのに
林立するうなじばかりが
まっさおな夜明けを
まちのぞむのだ

酒がのみたい夜は
青銅の指がたまねぎを剥き
着物のように着る夜も
ぬぐ夜も
工兵のようにふしあわせに
真夜中の大地を掘りかえして
夜明けは だれの
ぶどうのひとふさだ




石原吉郎 詩集/「サンチョ・パンサの帰郷」

プロフィール

梅田慈将

Author:梅田慈将
ただ生きているということは、生きる、ということではない。そのままそこで死んでいるような、つまらない男です。

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