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雅歌

雅歌
やさしいうた



とおいとおい野の果てに
一本の無花果の木が立っていて
そのまわりで
ものいわぬ隣人たちがあなたを呼んでいる
かえってこい!
かえってこい! ここには永遠も瞬間もない!
だが
人間は自分の生まれたところに戻ることができない

  あなたは何処から来たのか?
  あなたは何処にいるのか?
  そして
  あなたは何処へ行くのか?

とおいとおい沖のむこうに
ひとつの岩礁が突き立っていて
そのまわりで
眼の見えない隣人たちがあなたを招いている
走ってこい!
走ってこい! ここには憎しみも愛もない!
だが
人間は自分の終末の場所を知ることができない




木原孝一 / 未刊詩篇から




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ちいさな橋

ちいさな橋



生まれたその日から
そのことだけを習ってきた
この世界に橋を架ける できるだけ多く橋を架ける

朝の逆光線のなかで
私はビルとビルとの細い隙間に橋を架ける
目的もなく
かけあしで急ぐひとの 心と心の裂けめに橋を架ける
だが
引き裂かれた心と心のあいだは
もうだれの手にも届かない距離になっている

夕暮れの赤外線のなかで
私は過ぎゆく瞬間と来るべき瞬間に橋を架ける
理由もなく
うなだれて歩くひとの愛と憎しみのあいだに橋を架ける
そしていつかは
人間と人間とのあいだに 時と場所とのあいだに
どんな暴風雨にもこわれない橋が完成するのを夢みる

生まれたそのときから
このことだけを考えて生きてきた
この世界に橋を架ける できるだけ多くの橋を架ける




木原孝一/未刊詩篇から


ゴオルデン・アワァ

ゴオルデン・アワァ



  月曜日の午後六時十五分
   みなさまの第四チャンネルがおおくりする 「この
   人を」の時間です


聴視率七十パーセント
七十万台のブラウン管のなかで
ちいさな夢が明滅している
誰だって
心の中にいちばん感動的な「この人を」
持っていないわけはない

ある小学校の先生は
死んだ両親にかわって家族七人を養うちいさな姉と弟を
 選んだ
「いちばん悲しかったことは?」
弟が遠足に行けなかったとき
「いちばんうれしかったことは?」
姉さんがはじめて遠足に行けたときです

ある宗教家は
四十年孤児院をひらいている外国婦人を連れてきた
「いちばんつらかったことは?」
戦争ありましたね オランダへ帰されましたときね
「いちばん愉快だったことは?」
日本政府ね すこうしお金もらいましたときね

ある方面委員が伴ってきたのは
麻薬中毒の父親と自分と弟妹三人を捨てた母親を呼び返
 そうとしている少女だった
「はやくお母さん帰ってくるといいですね?」
でもみんな死なないでいればいいんです
「なにかつらいことがありますか?」
少女はそれに答えられない 生きているのがいちばんつ
 らいのに

これは公開番組だから
観客の拍手と
クイズとで賞金がふえてゆく
それにしても
二万円の不運とか 三万円の不幸とか
三万五千円の感動的事実があるものだろうか

私にもただひとり
この番組にぜひ出場させたい少女がいる
あの最後の東京大空襲の明けがた
鉄道線路のそばに裸で焼け死んでいたその女の子の
瞼を閉じてやると 血の音がした
あの子なら どんなクイズにも答えられるだろう

  聴視者のみなさまとともに
  ふかい 感動にひたった三十分間  「この人を」の時
   間を終ります





木原孝一





わたしたちの魂が
通り過ぎてきたちいさな町を知っていますか
だれも気ずかないちいさな町を

窓の上に
星の軋道が
きしみながら空から垂れさがっていて
町かどの
だれもいない乳母車のなかからちいさな叫びが聞こえてくる
「あああああ
 生命のあるもは消えてしまった
 みんな消えてしまった」
肉屋には牝牛を吊りさげていた鉤針が残っている
公園には仔犬をつないでいた鎖が残っている

わたしたちの魂が
住んでいたちいさな部屋を知っていますか
だれも気ずかないちいさな部屋を

テエブルのうえの
葡萄酒の瓶も
グラスの皿もからっぽのまま
椅子も戸棚もからっぽのまま
壁ぎわの
錆びたベッドのなかからちいさな囁きが聞えてくる
「ううううう
 内部のものは消えてしまった
 みんな消えてしまった」
世界の中心に吊りさげられた電球のしたで
時間をうしなった目覚まし時計が鳴っている




木原孝一


プロフィール

梅田慈将

Author:梅田慈将
ただ生きているということは、生きる、ということではない。そのままそこで死んでいるような、つまらない男です。

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